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お笑い考察部②「裏切りの笑い」

お笑い作家のさわはらです。
たくさんの芸人さんを見てきた中で、事前に学んでおいたほうがいい事がたくさんあります。

お笑いを志す人の為に知っていてほしい基本的な事を、項目にわけて書いていきます。
今日は「裏切りの笑い」です。

「裏切りの笑い」
笑いのネタにはいくつもの種類のボケや笑いどころが散りばめられます。その多くは裏切りの笑いです。
この基本的な事を知らない若い芸人さんが多い。芸歴の長い人でもちゃんとわかっていなかったりします。

「ネタをどうやって書いたらいいかわからない」「面白いと思うのだけど、笑いにならない」という方は肌感覚でネタを作っていたりする。それはそれで凄いことなんだけど、裏切りの笑いを理解すれば、もっと笑いどころを作れるようになるし、大きな笑いにしていくことができる。
知っておいて損はない。

裏切りを理解するには、フリというものを理解しないと始まらない。
フリは、簡単に言えば「話の前置き」。
「前フリ」「フリが悪い」「無茶ブリ」なんていう言葉は、一般の人でも使うようになってきた。
普段の会話で言えば、次の話や会話がつながるように、話を相手に「振る」わけです。相手は話をつなげて、そのフリに応えたりするわけです。

笑いにおけるフリというのは、一般的な使い方に加えて、話がこの後どうなるかをお客さんに予想させるという役割があります。
替え歌を思い浮かべるとわかりやすい。

「♪大きな栗の~」と歌いだせば、誰もが「木の下で~」と頭の中で次の歌詞を思い浮かべるでしょう。
この「大きな栗の」の部分がフリになって、それに続く「木の下で」を思い出させてくれるわけです。

何を、当たり前のことを書いているんだと思うでしょう。
つまり裏切るということは、この「木の下で」を別の歌詞に変えてしまう事で、予想を裏切る事なんです
大事なのはフリによって、お客さんに予想させることです。

フリを聞いたお客さんが次の歌詞を想像する
それを裏切るから笑いが起きる

予想という正解らしきものができるから、裏切りというオチが生まれます。
逆を言えば、フリがないとお客さんは予想をしないから、正解がない状態になってしまいます。正解がないものを裏切るということはできません。

仕組みがわかったところで、具体例。

先程は替え歌でしたが、これが漫才ではセリフになります。
パンクブーブーさんの陶芸家の弟子入りのネタの一節

「先生の作品を初めてみたとき思ったんです、これだ!・・」
このセリフを聞いて、お客さんは次のセリフを予想します。
「これが僕が追い求めていたものだ」とか
「この先生の弟子になりたい」という言葉を予想します。
実際には漠然とした予想なので、明快な答えはないですが、こんなような言葉が次に続くだろうなと、お客さんはアバウトに考えるわけです。
そして
「先生の作品を初めてみたとき思ったんです、これだ!これなら僕にも作れそうだ!」
と、裏切って笑いをとります。

大切なのは、オチのセリフだけではなくて、「先生の作品を初めてみたとき思ったんです、これだ!・・」の部分がフリになっているわけです
これが裏切りの笑いの理想的な仕組みです。

裏切りの笑いは必ずフリとセットになります。とても大事なことです。
「フリ」を使って、お客様の頭の中に、正解を刷り込む。これを裏切るから笑いが起きる。

これを理解していない人が多い。
オチの発想が悪いわけではなく、フリがちゃんとしていないからお客さんが正解を予想できていない。または、早く話しすぎて、お客さんに想像をさせる間を与えていないから、正解を予想できない。
なので、裏切りのオチをしているつもりでもウケなくなるんです。

ですので、オチを変えるのではなくフリを変えることで、ウケるようになったりします。オチを一生懸命考えるように、フリも一生懸命考えないと大きな笑いにはなりません。

ちなみにフリすぎて、オチが丸わかりみたいな事もよくありますので、そこは注意

フリと裏切りの仕組みがあるのは、言葉だけではありません。

・感情や行動のフリと裏切り
・ストーリーのフリと裏切り
・キャラクターのフリと裏切り
・日常の行動がフリとなった裏切り
等々、あらゆる事がフリになります。

・普通なら怒りそうな事を言われたのに平然と笑っていたら、感情の裏切り
・買い物を頼んだのに、勘違いして別のものを買ってきたら、行動の裏切り
・物語などを読んで、こんな話になるだろうなと予想したら、奇想天外な話になるのも、裏切り。
・「日頃真面目な部長が、お酒を飲んでハメを外していた。」これは、日頃の真面目な態度がフリになって、ハメをはずして はしゃいでいるのが裏切りになります。

とどのつまり、全てがフリになります。

イギリスのコメディ「モンティ・パイソン」に出てくる「シリーウォーク」は知っていますか?とにかく変な歩き方をするんです。今ネタで取り入れたら、障害者をバカにしているのかと言われそうなネタです。
これも、人は右足と左足を交互に等間隔に出して、二足歩行で歩くのが当たり前。というのがフリになっています。

変顔や福笑いも、普段の顔がフリになって、笑いになります。普通がフリで、普通じゃないが裏切りということになるんです。

「フリからの裏切り」が、フリになるパターンもあります。
バナナの皮が道端に落ちていて、それで転んだ人がいるとします。それを見ていた人が、何度もそれを見て笑っていると、同じことばかりおきるので、あまり笑えなくなってきます。そして、それがフリになって、今度はバナナの皮を踏んだのに転ばない人を見た時に、おかしくて笑います。

こんな風にすべての事象がフリになります。そのフリを利用すれば、いつだって裏切りのオチをつけられるんです。

ただ裏切りと言っても、やみくもに違うことを言えばいいと言うことではありません。
そして、大喜利のように言葉だけに限ったことでもありません。

例えば
感情が真逆になっているので変だ。というのも裏切りでしょう。
言葉では裏切っていないのに、行動が伴っていないという裏切り
普通ボケがくるなと思われるセリフをずらしてボケるという裏切り
ボケそうなところでボケないという裏切り(スカシ)
などなど

と、考えるといくらでも裏切る方法が出てきます。
どんな裏切り方ができるか、それが笑いのバリエーションにもなります。
同じ種類の笑いばかりではお客様は飽きてしまいます。
バリエーションはいくつも持っていて損はないでしょう。

最終的には漫才で漫才をしないという事も、究極的に言えば裏切りです。だいぶシュールな映像になりそうです。面白いかどうかは別ですが。

裏切りだけが笑いではないですが、この「フリと裏切り」を深堀りするだけで、笑いのパターンが増えます。
先ほども紹介した、パンクブーブーさんのネタを研究するのをおすすめします。パンクブーブーさんのネタの多くは、見事な裏切りの連続です。
フリと裏切りを意識してネタを見てみて下さい。
ここは言葉的な裏切り。ここは態度が裏切り。発言が年相応ではない裏切り。勘違いで裏切る。そしてツッコんだセリフがフリになって、次のう裏切り。・・・いろいろバリエーションが見えてくると思います。

フリの大切さが見えてきたでしょう。
でもフリがいくら大切だからといって、長いフリになりすぎたりしないようにしましょう。
そして、フリはあくまで自然になるように。フリだとバレたら、次にオチが来るという予想ができてしまいます。つまり裏切れなくなる・・スベるということになります。

最後に萩本欽一さんの名言
「フリは静かにまっすぐと」